半導体について

1.    半導体の定義をおしえてほしい。「シリコン=半導体」か。→A. 半導体というのは、導体と絶縁物の間の物質という意味。半導体には、シリコンのほかに非常にたくさんの物質群があります。

2.    半導体は絶対零度で絶縁物であるといったが、それ以外に絶縁体にならないか→A. 純粋のシリコンは、室温でもほぼ絶縁性です。GaAsではAsを過剰にいれたり、不純物Crを入れることにより室温でも絶縁性にしています。

3.    半導体に関して、宇宙機器では使用温度が臨界温度を下回ることもあると思うが、太陽電池がなぜ動くのか不思議。→A: トランジスタなどは、低温で動作しなくなるものがありますが、太陽電池は温度が低い方が高効率です。太陽電池においては、光のエネルギーを吸収して電子と正孔を発生するのですが、pn接合の界面の内蔵電界により分離しp側が正、n側が負に帯電します。この動作は低温ほど効率が良く、温度が高くなるとpn接合の逆電流が増えて効率が下がります。光物性のところで説明します。(松山君からはハードディスクのセクタを切る技術の限界についての質問がありましたが、ソフト的に解決できるので、ディスクにとって本質的な問題ではありません。)

4.    半導体はどのくらいもつか。→A. 半永久的です。

5.    半導体のシリコンと体内に入れるシリコンは何が違うか。シリコンはマウスピースとか整形に使われるがどうやって軟らかくなるのか。→A. 毎年ある愚問です。 形成外科で使うのはシリコーンという珪素を含む高分子材料です。理科系の学生でシリコンとシリコーンを間違えるのは日本人くらいのものです。日本人の科学リテラシーはなんとパラグアイについで21位ということで先進国中で最低だそうです。

6.    九州にシリコンアイランドと呼ばれる地域があったがシリコンバレーと比べてどのくらいの規模か。→A.土地の安い九州地区に半導体工場が集中してシリコンアイランドと呼ばれました。工場の規模はシリコンアイランドの方が大きいですが、シリコンバレーが「頭脳」をもつのに対し、こちらは手足だけです。比較になりません。

7.    半導体に量子カオスはかかわっているか。→A. どのような現象をさして量子カオスと言っておられるのかわかりませんが、量子デバイスも複雑系としてのchaoticなふるまいをすることは十分に考えられます。覧具先生や三沢先生に聞いてみてください。

8.    将来、半導体に代わる処理能力を持った素子は得られるか。→A. 光コンピュータ、超伝導ジョセフソンコンピュータなどが発展するかもしれません。

9.    電気製品が低温で動作しなくなるのは半導体の導電率が低温で低くなるからか。→A.家電製品は通常の温度範囲(0-30℃)では、きちんと動作するようになっていますから、半導体の温度依存性が原因で低温での動作不良が起きることはまれです。低温で動作しないのは、何らかの不良が考えられます。ハンダ付けの不良があっても、温度が高いときはバリアを熱活性によって乗り越えるのですが、低温になるとバリアを超えられなくなって、電気的に不導通となることがあります。

 

半導体物性

10. 高温での格子振動による移動度の低下は、人混みの中を歩くときに全てのひとが留まっていると歩きやすいが、みんなが動いていると移動しにくいと言うことか。→A. うまい表現ですね。まさにその通りです。周期ポテンシャルであれば、波動関数は全く散乱されずに結晶全体に広がるはずですが、周期性の乱れがあると散乱ポテンシャルとして働きます。低温ではイオン化不純物による周期性の乱れが散乱の原因ですが、高温ではフォノンによる格子の揺らぎが散乱の原因になります。

11.フォノンは格子振動によって作られる音みたいなものでそれが散乱を及ぼすのか。→A. 格子振動にも2種類あり、波長が格子定数に比べて十分に長く、まるで連続体の中を伝わる音波のような波が音響モードのフォノンです。一方、格子振動の周波数が高く光と相互作用するものを光学フォノンといいます。キミの考えているのは前者です。

12.バンドギャップを超える遷移なのに「直接」というと変な気がする。→A. フォノンの助けを借りないで遷移するという意味で「直接」なのです。

13.キャリア密度というのがわからない。→A. 単位体積あたりの電子または正孔(hole)の数です。電流の運び手(carrier) という意味で、電子やholeのことをキャリアというのです。キャリアウーマンのキャリアはcareer(職業経験者の意味)です。

14.なぜ半導体のキャリア数nは温度とともに指数関数的に増加するのか。→A. 電子がどのようにバンドを占有するかはフェルミ分布関数で説明されます。f(E)=1/{1+exp(E-EF)/kT}です。エネルギーの原点を価電子帯の頂にとりますと、真性半導体の場合には, フェルミ準位はバンドギャップの真ん中に来ますから、EF=Eg/2と表されます。いま、伝導電子を考えますと、ほぼ伝導帯の底にいると考えられるのでE=Eg.となります。従ってf(E)=1/{1+exp(Eg/2kT)となります。Egはほぼ1eVのオーダ。kTは室温で25meVのオーダですからEg>>kTとなり、exp(Eg/2kT)>>1。従ってf(E)~exp(-Eg/2kT)となります。これが指数関数的な変化の原因です。外来型半導体の場合、Egのかわりにドナーまたはアクセプタの束縛エネルギーが関係してきます。

15.移動度は高温で低下するといったがどのくらいの高温か。→A. 温度が上昇するとという意味で使いました。絶対零度と比べれば室温は十分に高温です。

16.(ロケットエンジンのそばで使う)半導体は熱い(環境に耐えられる)方がよいと言うことはわかったが、実際コンピュータの内部ではどのくらいの温度になるのか(竹内) 現在使われている半導体の耐熱温度はどのくらいか。→A. 半導体デバイスを高速動作させようとすると、電流をたくさん流す必要があります。このため、CPUなどのヒートアップが問題になります。P3 などでも放熱用のファンがチップの上に取り付けられているのをご覧になったことがあるでしょう。50℃くらいにはすぐになります。オーディオアンプの出力用トランジスタには放熱フィンが付けられているのを知っていますね。一般に半導体デバイスは温度が高くなると、動作条件が変わるので動作しなくなるか、破壊する場合があります。通常は0-50℃くらいを標準にしていますが、車載用などはもっと広い動作範囲を要求されます。

17.半導体が高温で電気伝導率が高くなると言うことは、半導体の性能が上がることなのか。→A. 全くの誤解です。むしろ逆でして、高温ではキャリア数が多くなりすぎ制御が難しくなるとか、pn接合の逆方向電流が増えてダイオード特性が悪くなるなど、ロクなことはありません。それで、いろいろと冷却をするわけです。太陽電池だって温度上昇とともに効率が落ちるのです。

18.温度上昇で導電率の低下が少ない半導体を導線に用いることはできないか。→A. 半導体の中のキャリア数はせいぜい1020cm-3程度なので、金属に比べて2桁以上キャリア数が少ないのです。温度変化による金属の伝導率の低下は1桁程度なので、半導体は導体としては金属にかないません。

19.半導体の導電率は高温で高くなると言ったが、上限はあるのか。→A. あるにはあるのですが、その前に融けてしまうかも知れません。

20.半導体の理論において量子理論は今日やったところ以外にどのように反映されるか。→A. 最近は、人工的に超微細構造を作れるようになってきました。電子のドブロイ波長と同程度(10-20nm)以下の微細構造をつくると電子波はその構造の中にconfine(閉じこめ)されて、量子井戸準位を作ります。これは多重量子井戸(MQW)レーザなどに応用されています。微細加工技術で超薄膜へてろ接合構造を作ると、電子は層方向の自由度を失って2次元電子ガス(2DEG)状態になります。ここに磁界をかけて電流を流すと量子化Hall効果が現れます。このように、半導体の世界は「量子」理論がそのままデバイスにつながる世界なのです。

21.半導体の性質はわかったのですが、それがどのように実用されているのですか。→A. 半導体は人為的にキャリア密度を変えることができます。また、電子が主なキャリアであるn型、ホールを主なキャリアとするp型というように、伝導型を自由自在に制御できるので、pn接合をつくることにより整流性やキャリア注入などの機能をもたらすのです。これによりことによりトランジスタなどの電子デバイスを作ります。その原理には半導体の性質が使われています。

22.n型、p型のn, pは何の頭文字ですか。→A. nはnegative(負)、pはpositive(正)です。

23.価電子が5個以上、または、4個以下の原子を混ぜるとどうなるのか。 II族やI族でもp型になるのか。 実験の際の講義でVI族、II族でもよい聞いたが、実際に使われているのか。利用されないとすれば理由は。→A. SiにZnなどII価の金属を拡散すると、ダブルアクセプタといってホール2個を束縛しているアクセプタになります。

24.5族元素ならどれでもn型にできるのですか。→A. N, P, As, Sbまではシリコンを置換してドナーになりますが、Biは大きすぎて置換しないと思います。

25.  シリコンの電子エネルギーのところで室温の場合とか、水素の結合エネルギーとかと比較していましたが、比較して結局何がわかるのですか.。ドナーとアクセプタのエネルギーと水素の結合エネルギーの関係はどうなるのですか。→A. 前に導電率のところで、キャリア数nはドナーやアクセプタの束縛エネルギーをDEとすると、n=n0exp(-DE/2kT) [ここにn0(NdNc/g)1/2]で表されるという話をしましたね。ドナーの活性化エネルギーは、ドナー原子に束縛されていた電子が、束縛を振り切って自由になるためのエネルギー(束縛エネルギー) DE1/2です。もしこれが、室温の熱エネルギーkT=25meVより大きく例えば100meVであったとしましょう。すると、-DE/2kT=-100/50=-2ですからn =n0exp(-2)=0.135n0となって、すべての電子が活性化した場合の13%しか活性化しないのです。これに対して、DE=5meVだとすると、-DE/2kT=-0.1となりn=n0exp(-0.1)=.905n0、すなわち90%以上も活性化するのです。従って、室温と比べることの重要性は理解していただけると存じます。一方、ドナーの束縛エネルギーを有効質量近似で計算すると、と書き表されます。ここにm*は有効質量といって、半導体の中で電子がもつ見かけの質量、eoは真空の誘電率、erは比誘電率です。これを、水素の1s電子の束縛エネルギーを使って書くととなりますが、シリコン中の伝導電子の有効質量比m*/mは平均として0.25er11.9なので、DEは水素原子の束縛エネルギーの0.00176倍、従って、0.00176×13.6=0.024eV=24meVとなります。このときexp(-DE/2kT)=exp(-0.48)=0.618となり、62%程度活性化します。

 

結晶成長・結晶工学

26.半導体はどうやって作るのか。→A: シリコンやガリウム砒素は融液からの引き上げ法(Czhochralski)で作ります。詳細は、半導体のところで説明します。

27.欠陥のないシリコンを引き上げるのになぜ回転させるのか。→A. 水飴をお箸でツボから引き上げるときどうするか考えてみよう。

28.小学校か中学校時代にやったミョウバンなどの飽和水溶液中にひもを垂らして結晶を取り出す実験とチョクラルスキー法は似ていると思うが違うのですか。→A. キミは少年時代によい経験をしましたね。みょうばんの実験は溶液成長におけるチョクラルスキー法だと考えて差し支えないでしょう。ただ、みょうばんの場合回転して引き上げていくということはしないで、「過飽和度」のために溶液中で自然に成長させる点が違います。

29.(はじめの結晶成長の話の中で出た)飛行機雲の原因が、ガスの粒子を核として水蒸気が氷になってくっついてできるとのことだが、氷が降ってくることはないのか。→A. 6000m上空では雲の中身はほとんど氷です。これが空気中を落っこちてくるとき、気温が高いと溶けてしまって雨になるのです。たまに大きな氷塊が落ちると溶けきらないで雹(ひょう)になります。

30.CZ法でるつぼにカーボンを使う理由は何ですか。→A. カーボンと言いましたが、正確にはグラファイト(黒鉛)を使います。グラファイトは、融点が3550℃と元素中最も高く、シリコンの融点(1414℃)でも軟化しないこと、シリコンと同じ4価なので添加されてもドナーやアクセプタにならないことなど多くの利点があります。融液成長のためのるつぼとしては、GaAs(融点1238℃)には石英ガラス(軟化点1500℃)、ガーネットなど酸化物の溶液成長には白金(Pt:融点1770℃)が使われます。

1.    チョクラルスキー法で種結晶はどういう役割をしているのですか。→A. 融液から結晶が成長する過程では、核発生(nucleation)があってその核をもとにして成長(growth)して行きます。種がないといろんなところに核発生して小さい結晶が多くできて、欲しい結晶ができないのです。

2.    種結晶はどうやって作るのですか。→A. 以前に作られた良質の単結晶を適当にカットして種にします。

3.    CZ法で種結晶を使うが、他のものを種に使うことはできるか。→A. 格子定数や熱膨張係数などが一致しないと成長した結晶の結晶性がよくなりません。シリコンならば、長年の研究でよい種結晶が入手可能ですから、わざわざ、他の物質を使うメリットはありません。

4.    るつぼの大きさは最大どれくらいまで可能なのですか。→A. 現在は直径50cmくらいのるつぼをつかっていますが、要請があればいくらでも大きなものができると思います。

5.    CZ法に用いる結晶をぶらさげる棒には何を用いるのですか。→A. 石英ガラスの棒を用います。種結晶は棒の先にPtなどの高融点金属のワイヤでしっかりと固定してあります。

6.    融液成長はシリコン以外でも可能か。→A. GaAsもLEC(liquid encapsulated Czhochralski液体封止CZ法)という特殊な融液成長法で作られます。

7.    FZ法は、あまり使われないと言われたが製作コストが高いからですか。→A. その通りです。FZ法は、あまり使われないと言われたが製作コストが高いからですか。→A. その通りです。製作コストが高いのは、スピードが遅いことと、この方法ではせいぜい直径2〜3インチ(=5〜7.5cm)位の結晶しかできないからです。

アンダーラインの部分誤りであると、東北大学通研室田研の櫻庭先生からのご指摘がありましたので次のように訂正します。「しかし、以前は、せいぜい2-3インチの結晶しか出来なかったのですが、最近では6インチの結晶も出きるようになりました。」 櫻庭先生のご指摘
上記の部分ですが、実際に私たちの研究室では、信越半導体からFZの6 インチSiウェハを手に入れております。もちろん高価ではありますが、詳 しい製法は不明です。10年位前にも4インチがすでに手に入っていました。
通常のCZSiウェハではウェハ自体の強度を確保するために酸素が故意に ドープされていますが、FZと類似(?)した技術で、CZSiウェハを水 素ガス雰囲気中で高温処理し、表面近傍の不純物(酸素を含む)を水素還 元脱離させることにより、表面のみ高純度化されたSiウェハを製造する技 術も存在します。
信越半導体は技術開発力に秀でており、Siウェハに関してはシェアと品質 ともに世界最高であると聞いてます。12インチウェハ量産技術を代表例 として、これからもさらに技術革新がすすんでいき、常識を覆すものが出 てくると思われます。(品質とコストのいずれにおいても。)
以上のようなことで、Si結晶作りという地味に見える分野ではありますが、 その技術の進歩には驚くべきものがありますので、どうぞお気に止めてお いて頂ければ幸いです。


8.    天然のガーネットと溶液成長でつくったガーネットはどこがどうちがうのか。どちらがキレイなのですか。→A. 天然のガーネットには不純物やボイドやインクルージョンがありますが、人工のガーネットは天然のものより結晶的に良質です。どちらがキレイかは感覚的な問題です。

9.    半導体の製造が環境に悪影響はないか。→A. 厳しく管理されているので、ほとんどありません。

10.半導体を1個作るのにどれくらいコストがかかるか。シリコンは高価なものか。→A. 大きさ、純度、ドーピングなどによって異なります。この間のウェーハは数万円です。

11.今日出てきた方法はそれぞれとても時間がかかりそうですが、それぞれどれくらいかかるのですか。→A. CZは、1時間に50-100 mmというところでしょうか。FZはもっと遅いです。

12.シリコンの引き上げにどれくらいの時間をかけるか。→A. 2日-1週間

13.半導体(の薄膜)を重ねて人工超格子を作ると言ったが、どうやって作るのか。目に見えるか。→A. MBE(分子線エピタキシー)などの超高真空成膜装置、あるは、MOCVD(有機金属化学堆積)成膜装置を使って1分間に数原子層というような遅い速度で堆積してきます。MBEは森下研、佐藤研にあります。MOCVDは応用化学の纐纈研にあります。実際1層づつ作っていくのはむずかしいのですが、電子線回折という方法でその場観察しながら成長させます。

14.気相成長が早すぎてわからなかった。→A. ごめんなさい。固体から気体に相変化することを昇華といいます。昇華法は原料を昇華して低温部で結晶化するやり方です。このほか、気相化学輸送法といって、ヨウ素などの輸送媒体を用いて、高温部に置いた原料を蒸気圧の高い気体に変えて低温部に輸送して結晶化する方法があります。詳しくは、結晶成長ハンドブック(共立出版1995)の気相輸送法の項(佐藤執筆p.298-p.300)をお読み下さい。

 

 

シリコンの精製

15.一番大量にシリコンを精製する方法は何ですか。→A. 粗珪素をトリクロロシランに変え蒸留精製し、水素還元し赤熱した珪素棒上に析出させると多結晶シリコンが得られます。これをさらに帯域溶融で高純度化するのです。(岩波、理化学辞典による)

16.シリコンの純度が10nine(99.99999999%)だと聞いて感心した。どうやって測るのですか。→A. SIMS(secondary ion mass spectroscopy)という微量質量分析法が使われます。

17.部分的に融点以上に加熱するにはどうするのか。→A. 高周波加熱法を使います。溶かしたい部分のまわりにコイルを巻いて高周波の (13MHz)電力を加えると電磁波が発生し、それによってシリコンが加熱されるのです。シリコンの誘電率の虚数部(=損失を表す)の存在により電磁波のエネルギーがシリコンに吸収されて熱に変わるのです。

18.帯域溶融法で液体部分を動かしていくと書いてあるが、具体的にどうやるのですか。→A. 高周波コイルを動かすか、試料を動かすかどちらかの方法を使います。

19.帯域精製法を何度も繰り返すことによって本当に純度は上がっていくのでしょうか.3回くらい繰り返すというがそれ以上は純度が上がらないのですか。→A. 繰り返すほど純度は高くなりますが、コストが高くなりますから、デバイスを作るために最低限必要なレベルまで到達すればそこでやめるのです。

20.偏析係数が何のことかわかりません。→A. 偏析とは、物質中の不純物元素の分布が不均一になる現象です。凝固が始まった部分は不純物が取り込まれないが後から凝固した部分には多くの不純物が含まれるという現象です。偏析係数と言ったのは、正確には平衡分配係数K0という量で、固相中の不純物濃度をCs、液相中の不純物濃度をClとすると、K0=Cs/Clと定義されます。K0<1であれば、不純物は液相の方に押し出されて、固相の純度があがります。シリコン中の分配係数はAlが0.004、Inが5×10-4、Cuが4×10-4などと知られています。従って、1度帯域溶融しただけで、Cuは1/2000にも減るのです。

21.帯域精製法は、不純物の凝固点がシリコンの凝固点より高いときには使えないのでは。→A. 不純物の融点がシリコンの融点より高いと、シリコンの融帯には不純物の固体がコロイド状に浮かんでいるような状態となります。この融帯が固化するとき不純物の固体粒子はシリコンに取り込まれにくいので、帯域精製法が使えます。

22.純度の高いシリコン精製法は帯域精製しか無いのか。→A. 気相精製法がありますが、ゾーン以上に不純物を取り除くのは難しいようです。

23.融解して動かすと不純物が移動するかが分からなかった。→A. 融液にはたくさん不純物を含むことが出来るがシリコンの固相には入り込めないからです。

24.高純度のシリコンを作れる会社は3社ほどと聞いたが、どういう点で競争していくのか。→A. 集積回路が微細化するにつれて、転位以外の点欠陥の制御やドーピングの均一性が問題になってきました。また、30cmのウェーハの切断、研磨、そりの制御も問題です。さらに重要なのはコストを如何に下げるかです。

25.高校でテンナインでなくイレブンナインと聞いたことがあるが。→A. その通りです。ppbのもう3桁下のppfa(10-12)のレベルまで要求されはじめています。微細化によって、1素子あたりの不純物濃度のばらつきが問題になりつつあるからです。

26.シリコンの純度を100%に出来ないか。→A. 出来ないと思います。

27.切り落とされた部分の2次利用はあるのでしょうか。→A. その中にはシリコン以外の不純物が高濃度に含まれるのですから資源として使えるはずです。

28.このような精製法の細部まで知っていることが、半導体デバイスの企業面接で要求されるのか。→A. 詰め込む知識としてより、好奇心として知っていた方がよいでしょう。

29.精製後の円柱は必要量だけきれいに切断できるのか。→A. 精製したインゴットは単結晶ではなく、多結晶体なので、たたけばバラバラにすることができます。単結晶成長の原料としては、このような多結晶体を使います。

30.コストを無視して現在の技術ではどれくらい高純度になるのか。→A. 超微量不純物の観測手段で制限されます。10-12位の不純物濃度までは分析可能ですから、これくらいが限度でしょう。

 

半導体プロセス

31.シリコンの結晶をスライスする時、どのようなものでどうやって切るのですか。→A. ダイヤモンドの粉末を固めて作った円形のブレード(刃)で切断します。大きな直径のものは内周カッターという特殊な回転ブレードを使います。

32.半導体をカットするときに半導体にくっつく屑をどうやって取り除くのでしょうか。フッ素を使って反応させて取り除くと聞いたことがありますが・・。→A. 最近は圧力を掛けた純水で取り除いていると思います。

33.ダイヤモンドカッターにはダイヤモンドの粉末が使われているがそのダイヤモンドを砕くには何を使ったのですか。→A. 前にも話しましたが、ダイヤモンドは硬いが脆いので、強く叩けば劈開して粉々になります。

34.ダイヤの粉はどうやってかためるのですか。→A. バインダー(つなぎ剤)のなかにコロイド状に溶かして整形し乾燥焼結しているのではないかと思いますが、詳しくはわかりません。

35.高純度のシリコンの精製法は学んだが、精密に加工するのにどのような技術が用いられているのでしょう。→A. デバイスの作製法のところで話します。

36.シリコンウェーハに研磨面とそうでない面があったのは何故か。→A. デバイスを作り込む側だけ研磨してあるのです。

37.シリコンの研磨にダイヤモンドの代わりになるものはないのか。→A. SiCを使うこともあります。

38.シリコンウェーハは四角い方が処理がしやすいと思うがなぜ円形か。→A. 回転して引き上げ、直径制御をしているからです。ゆっくり引き上げ、直径制御をしないとファセットのある四角いのができます。

39.純粋なシリコン格子にドナーやアクセプタを入れるにはどうするのか。均一に入れなければならないと思うがどうすればよいのか。→A. シリコン上にドナーとなる元素を蒸着し熱拡散すれば、シリコン原子と置換しながら、次々に奥の方に拡散していきます。最近ではイオン注入法によって高エネルギーに加速したイオンを打ち込み、アニールして分布を均一にします。

40.欠陥のあるシリコンでLSIを作れるか。→A. シリコンには転位はありませんが、スワールと呼ばれる酸素に関係した点欠陥や、原子空孔、不純物の析出などがあります。また、切断の際のキズなどもあります。そこで、ウエーハの裏からサンドブラストしたりして裏面に欠陥をつくり、アニール(焼鈍)してやると、不思議なことにシリコン表面付近の欠陥が新たに作った欠陥に引き寄せられて、表面には欠陥のない領域(denuded zone)ができます。LSIは表面の1μm程度の深さしか使いませんからこのような処理でよいのです。この方法をゲッタリングといいます。

41.(イントリンジック・ゲッタリングによる) denuded zone形成のメカニズムは解明されているか。→A. これは原子の拡散現象が関係しています。メカニズムはほぼ解明されていますが、まだ十分ではありません。(この他、同じ方からbus-lineがbottle neckになっていることの解決策とかCPUのscalabilityに関する質問がありましたが、専門家でないのでお答え出来ません。)。

42.フォトレジストとは何か。→A. レジストとは、酸やアルカリなどの化学処理に耐える物質という意味です。感光性を持ったレジストには、光が当たったところのみ酸で除去できるようなポジ型と、光の当たったところのみ硬化して化学処理に強くなるネガ型があります。写真の感光剤と同じように考えてください。

43.半導体プロセスにおけるエッチングはエッチング液で行うのか。→A. エッチングには湿式のものの他、ドライエッチングといって、気相反応を用いるものがあります。代表例がRIE=reactive ion etching(反応性イオンエッチング)で、森下研では半導体の微細加工にRIEを使っています。

44.プロセスのマスクの除去方法は。→A. フォトレジストは有機物なのでアセトン等の有機溶媒で除去できます。

45.シリコンのプロセスの説明があったが、先生は実際にその過程を見たことがあるか。→A. だいぶ以前のことですが、友人がソニーでプロセスの関係のトップにいたので、クリーンルームに入って実際のプロセスを見せてもらいました。一般の学生は会社のクリーンルームに入れてもらえる訳にいきません。しかし、同様のリソグラフィのプロセスは、農工大のVenture Business Laboratoryのクリーンルームでも大学院生たちがやっています。

46.シリコンは酸化しやすいとのことでしたが、はじめにHFなどで取り除いても、プロセスの間に酸化するのではないですか。→A. プロセス中に酸化すると困るときは、予めSiO2など酸化を防ぐもので覆っておき、必要なときに取り除けばよいのです。

47.シリコンの上にAlの配線をするだけのことであれば、高純度のシリコンを使う必要がないのではないですか。→A. その通りです。実際にはpn接合を作ったりして伝導度の制御を行うので、はじめの不純物濃度を減らしておく必要があるのです。

 

半導体デバイス

48.半導体のp型、n型はどのような場合に使い分けられるのか。→A.トランジスタやダイオードをつくるときです

49.半導体はpn接合しかりようされていないのですか。高校の教科書にnpn, pnpがのっていたが。→A. pn接合を二つ組み合わせてnpnpnpのトランジスタを作るのです。もちろん金属との接触を使ったり、半導体そのものの抵抗の温度変化を使ったりしています。大きな産業になっているのは接合が重要と言ったのです。

50.pn接合のことがわかりません。なぜ、電子とホールはくっついて(=再結合して)しまわないのですか。くっつかないにしても全体に均一に混じり合わないのですか。→A. Good Question! キミの言うとおり、n型領域に注入された少数キャリアであるホールは、そばにある電子と再結合してなくなってしまいます。同様にp型領域に注入された少数キャリアである電子も相手を見つけて再結合します。再結合するまでの時間を少数キャリアの寿命(lifetime)といいます。再結合するま進む距離を拡散長と言います。従って、実際にはn型側の界面付近では、電子が出ていって正の空間電荷のみが残っており、反対にp型側の界面付近ででてホールが出ていって負の空間電荷のみが残っています。これが、内蔵電位の原因になる電気2重層なのです。それで拡散電位ともいうのです。

51.pn接合の一方向性の説明がわかりにくかった。→A. pn接合にバイアスをかけないとき、内蔵電位のために、電子もホールも移動できないのですが、順方向バイアスを加えると、電子にとっての障壁が低くなり電子はn型領域からp型領域に流れます。電子の電荷は負なので電流はp型側からn型側へと流れます。同時にホールにとっての障壁も小さくなり、ホールはp型側からn型側に流れます。これに対して、逆バイアスを加えると、電子、ホールともに障壁が増えるので、電流は流れません。これが一方通行の理由です。

52.pn接合の接合部は何でできているのですか。→A. 最初の頃はp型半導体とn型半導体を直接接合していました。しかし、それぞれの半導体の表面付近には界面準位があって、理想的な接合は作れません。そこで、n型基板の上にp型の薄膜を成長したり、n型基板にイオン注入法でアクセプタを高濃度に添加したりして作るようになりました。従って接合部には何もないのです。

53.pn接合をつくるとp側にマイナスが、n側にプラスができて電界はnからpに向かってかかるのに、ダイオードの順方向電流はp側からn側に流れるのはなぜか。→A. Q11とも関係しますが、無バイアスのとき内蔵電位差によってキャリアの移動が抑制されているのです。p側を正にしてやると、バリアが減ってpからnへと電流が流れるのです。

54.ダイオードの順方向電圧降下が、Geでは0.2V, Siでは0.6Vと違うが、バンドギャップだけに関係するのですか。→A. バンドギャップEgGeでは0.6eV, Siでは1.1eVなので、Geの方がSiよりバンドギャップが低いのですが、順方向の電圧降下はバンドギャップに直接関係があるのではなく、接合を作ったときのバンドの変化と関係します。ただ、傾向としてはギャップが大きいほど電圧降下も大きくなります。

55.pnp接合にすると電流の流れが分からなくなる。→A. pnpはトランジスタの構造です。電子の注入という現象が起きます。

56.トランジスタにはnpnpnpとがあるらしいのですが、この名称はp型、n型に関係あるのですか。→A.エミッタ、ベース、コレクタに、それぞれ、p型、n型、p型を用いたバイポーラトランジスタのことをpnpトランジスタといいます。これに対し、それぞれn型、p型、n型としたものをnpnトランジスタといいます。

57.pnp, npnではどんな働きが?という疑問を持ちつつ次に期待している。→A. pnpトランジスタを考えましょう。エミッタがp型、ベースがn型ですから、エミッタ-ベース間にはpn接合ができています。ここでエミッタ側を正とする順バイアスを加えますと、エミッタ(p)からベース(n)へホールが注入されます。この注入されたホールは、ベースにとっては少数キャリアです。Q12の答に書いたように、少数キャリアのホールはすぐに多数キャリアの電子と再結合するわけではなく、拡散長だけは生き残って進みます。そこで、ベースの長さを拡散長以下にしてそこにコレクタ(p)を起き、コレクタ(p)側をベース(n)より負にバイアスしますと、ベースをすすむ少数キャリアであるホールにとってはむしろ負電荷に引き寄せられる形となり、コレクタの電極に到達します。エミッタ-ベース間のバイアスを制御することで、ベースに注入された少数キャリアの数を制御でき、トランジスタの動作をします。

58.コンピュータの半導体も温度変化の影響を受けるのですか。→A. 動作不良にならないよう、ファンをつけて冷やしたり、ヒートパイプで熱を逃がしたりします。

59.FETとは何か。→A. field effect transistor (電界効果トランジスタ)の略。通常のバイポーラ・トランジスタは電流により電流を制御しますが、FETでは電界によって電流を制御する。代表例はMOS-FETです。

60.普通のFETとMOSFETはどこが違うか。→A. 現在使われているFETのはすべてMOS構造のものです。

61.フリップ・フロップについて詳しく聞きたい。→A: パタン・パタンという擬声語です。電子工学の用語では、双安定回路のことをこうよびます。この回路は2つのトランジスタの正帰還回路から構成され、入力があるたびに1つの安定状態からもう1つの安定状態に遷移します。

62.フリップフロップがよくわからないので教えて欲しい。→A.2個のトランジスタA,Bからなり、互いに一方の出力が他方の入力側に正帰還(positive feedback)されている回路を考えましょう。はじめに例えばAが導通してBが切断状態にあるとき、これは安定に保たれています。ここで、外部からのパルスでBを無理に導通状態にしてやると、今度はAが切断状態、Bが導通状態というもう1つの安定状態になります。これを双安定マルチバイブレータといいます。シーソーのようにギッタンバッタン(flip flop)するのでフリップフロップともいいます。

63.半導体で記録が出来るか。→A. 半導体の不揮発性メモリを使えばできます。最近はテープのない留守番電話や録音機がありますが、これは、その様な半導体デバイスを用いているのです。

64.RAMについて習ったが、電源が切れても記憶が消えないEPROMとはどういうものか。→A: EPROMはelectrically programmable read only memoryの略称で、電気的に書き込みの出来るROMです。これは、浮遊ゲート(floating gate)を持つMOS(metal-oxide-semiconductor)-FET(field effect transistor)のことです。ゲートに通常より高い電圧を印加して浮遊ゲートを帯電させ、MOSトランジスタのチャネルの導通状態を変えることによって記録するものです。分かるように説明するにはMOSなど電子デバイスの最低限の知識が必要です。電気電子工学科の「電子デバイス工学」の授業を学ぶか、関係する教科書を読んでください。

65.RAMは外部記憶装置より速いと聞いたがなぜか。RAMより速くなれば外部記憶はいらないか。→A. RAMは半導体の回路だけでできていて可動部分がありません。これに対して外部装置はHDD、FDD,MO,CDROMいずれも機械的な回転部分をもっています。可動部分があるとアクセスに時間がかかってしまいます。

66.(微細配線におけるelectro-migration, stress migrationに関連して)どうして金属の原子が動くのか気になった。→A: 金属の結合は大変緩くて原子は動きやすいのです。特に温度を上げるとよく動きます。

67.IBMの銅配線LSIは何がよいのか。→A. Alに比べ電気抵抗率が低い、半導体との密着性が強い、ストレスマイグレーションやエレクトロマイグレーションがおきにくいなどの利点があります。

この問題に関して、東北大学の桜庭先生からコメントをいただきましたのでアップしました。ご参照下さい。

68.メモリ配線は非常に細かいというが誰が付けているのか。→A. サブミクロンの配線を人間ができるわけがありません。コンピュータでマスクパターンを設計して、電子ビームリソグラフィ技術で配線の部分だけマスクを除去し上から配線用金属をスパッタ法などの手段で堆積していくのです。何千個もの配線が一気にできてしまうのです。メモリチップからマウントへの配線も、昔は女工さんが顕微鏡を見ながらの手作業でしたが、15年くらい前からすべてが、自動ボンダーという配線用ロボットを使って自動的に行われています。

69.ディーラムってなんですか。→A. D-RAM (dynamic random access memory)でコンデンサに情報を蓄えるタイプの半導体メモリです

70.D-RAMにはどれくらいの情報量が記憶できるのか。→A. 64MbのDRAMでは6400万ビットしたがって800万バイトの情報量があります

71.DRAMでコンデンサが記憶すると言っていたがなぜそんなことが出来るか。→A. コンデンサは電荷を蓄えることができます。それとトランジスタのスイッチ作用を利用しているだけです。

72.LSIなどは平面的だが、何層も重ねて立体的にできないか。→A. いま多くの企業で取り組んでいます。しかし、デバイスを作り込んだ上を平らにして、きちんとした単結晶を成長させ、さらにそこにデバイスを作り込むのは実際にはかなり難しいのです。

73.最近、SDRAMやSGRAMなどのRAMがあるがどのようなものか。→A. 最近のメモリの傾向ですが、汎用のものでは、メモリキャッシュの転送レートの向上と省電力化のため同期型のDRAM(Synchronous DRAM)が研究されています。またSDRAMにグラフィックなどの具体的な応用例に特化した機能を付加し、ブロックライトなどの動作ができるようにしたものがSGRAM(synchronous graphic DRAM)です。いずれもDRAMをもっとapplication向けに改良したものです。(トランジスタ技術エレクトロニクス用語辞典1999年4月号)

74.CPU, RAM・・が分かれているのとシステムLSIとの機能的優劣は。→A. ワンチップのLSIにすると配線が短くなりますから浮遊容量も減り高周波特性が向上し性能が上がります。

75.太陽電池のシリコンの純度はどのくらいか。→A. six nine程度あればOKだそうです。

76.高品質のシリコンを使うと太陽電池の効率は上がるか。→A. 純度を良くしてもあまり効率は上がりません。

77.1台のコンピュータに使われている半導体の量を教えて欲しい。→A. 最近は集積化が進み、半導体の量は全部合わせてもウェーハ1/4枚程度でしょう

78.分かりやすく図解してある参考書があれば紹介して下さい。→A. 大学生向きの図解してある本は見あたりませんが、高校の教科書や参考書に図解がででていますよ。例えば、第一学習社刊「新物理IB」第4章、第2節、(4)半導体の項。チャート式「新物理IB, II」第4篇、第2章、5節「半導体」には、半導体、真性半導体、不純物半導体(n型半導体、p型半導体)、半導体ダイオード、トランジスタ(トランジスタの構造、トランジスタと電圧、トランジスタの増幅作用、集積回路)などがちゃんと載っています。

 

 

 

 


【コメント】 銅がアルミより優位な点として、マイグレーション耐性も重要です が、それ以上に抵抗率が小さいということも重要です。
配線抵抗を下げられるから低消費電力化できるという説明が最も単 純ですが、実際には、配線抵抗値が同じ状況において、配線幅(厚 さ)を小さくできることにより隣接配線間の寄生容量を減らせると いうメリットを利用していると思います。
LSIの動作周波数がGHzに達している現在では、配線間寄生容量での 充放電による電力消費を抑えることが重要となっています。このよ うな状況において、低誘電率層間絶縁膜の採用という要素が組み合 わされることにより、さらなる高速化(高周波化)を図ると同時に、 低消費電力性を維持しようというのが狙いかと思われます。
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櫻庭 政夫 / 東北大学 電気通信研究所 室田研究室 助手